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口内炎が痛すぎて [熱彩]

日曜日、一日中口内炎がーイテーイテーとうだうだ言っていたらこんなんできました。
こちらではお久しぶりの高菜です。

熱彩はやっぱり楽しいね。彩斗兄さんが好きすぎて俺僕私。

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バハラグのホー×ビュウネタである [バハラグ]

昔のバハラグSSをリサイクルしてみた。
題はそのうち考えるよ!



携帯でアップしたら改行消えて読みにくいわ!!ヽ(`Д´)ノ

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金魚酒5 [熱彩]

「熱斗~~」

 本当に幸せそうに、楽しそうに胸に擦り寄る彩斗を抱き留めながら、眉間をひくつかせた。
 困った。そりゃもー困った……けど。こんなに嬉しいこともない。恥ずかしがり屋の兄から、こんなにも好き好きオーラを発してもらえる事なんて滅多にないのだから。たとえ酔っぱらっているとはいえ!
 そんな複雑な気持ちを抱えて、どうしようか、いやでもこのままでもいいんじゃないかなんて流されかけているところに、次なる爆弾は容赦なく落とされるのであった。

「ね、脱いで」

 ――――は?

「な……に言い出すんだよ兄さん!」

 あまりの要求に、幸せ気分に浸りつつあった熱斗の脳は、瞬時に正気に戻された。

「良いから、脱げ」

 命令……?!

「ダメだってばこんなところで!」

 熱斗の着ているシャツの襟元をグイグイ引っ張る彩斗の指を慌てて外し、脱がされまいと両腕でガードした。いつもと立場が逆だと、ひどく調子が狂う。

「お願い……聞いてくれないの?」

 今度はうるうると目に涙を溜めて訴えかける。そんな風に懇願されると、何でも言うことを聞いてあげたい気分になるのは惚れた弱みか。そこをグッと堪え、動悸の収まらない胸を大きく深呼吸することで誤魔化した。

「だ、だからさ。キス魔とか絡み上戸とかは(程々なら)大歓迎だけど、流石に脱ぐのは……」

「――僕の服は嫌だって言っても脱がすくせに」

「わぁあああ!」

 ジト目でしれっと暴露され、大慌てで彩斗の口を塞いだ。

「炎山も居るんだから爆弾発言は止して……!」

 後頭部と口を両手で挟むようにして、ダラダラと嫌な汗を掻きながら必死の形相で囁いた。一応意識の片隅にもう一人の存在はあったようだ。

「何を今更。俺のことは居ないものとしてくれてまったく構わないぞ」

 頼みの綱の炎山はあさっての方向に目を反らし、シッシッと手を振ってグラスを傾けている。

「この薄情者っ」

 なんとでも言え。巻き込まれるなんてまっぴらごめんだ。まぁ、自分に彩斗が絡んでくるかは疑問だが。

 そうして炎山は仕事が残っていると言い訳をして、そそくさとリビングから出て行こうと立ち上がった。

「炎山~~頼むから、お前も兄さん止め……て……」

 パシャン……パタパタ……

 突然の水音と、ジワジワと浸食する冷たさ。まさかという思いと共に胸元を見ると。

「……濡れちゃったv」

 服の上から酒――グラスに入っていたシードルをぶっかけられているではないか。

「ホラホラぁ。冷たいでしょ、脱いじゃいなよ♪」

「に……兄さんやめて~~!!!」

 シャツの裾に手を差し込まれ、やたらと慣れた手つきで捲り上げられてしまった。(いつも熱斗にされていることを覚えていたらしい)

「待って……っ兄さん脱がさないでって!!」

「あーそっか。熱斗ばっかり脱ぐのは不公平だよね。じゃあ僕も……」

「そういう問題じゃ……」

 マウントポジションを取った体制で、彩斗は艶めいた……と言うかどこか据わった目で熱斗を見下ろし、見せつけるように着ているシャツのボタンを外していく。ボタンが外れる毎に露わになっていく胸元。ほんのりと綺麗な紅に染まっているそれは、見る者の(というか熱斗の)視線を捕らえて放さない。スルリ、と衣擦れの音を立て、滑らかな肌が惜しげもなく晒されて……触れたい、と反射的に思ってしまうのは致し方ない事だろう。
 だがしかし、ここはまかりなりにも友人宅。熱斗にとって、彩斗は最愛の兄ではあるが、炎山だって大事な友人なのだ。長い年月を掛けて築き上げた友情と信頼を、こんな事で失うようなことはしたくない。なけなしの理性を総動員して熱斗は堪えた。それはもう必死に。

「炎山、炎山!! 頼むからせめて兄さんを離してくれよ!!」

「……炎山はぁ、そんな酷いことしないよね?」

 僕たち、友達だもんね。
 そんなことを言いながらニッコリ笑う彩斗から、黒いオーラを感じるのは気のせいだろうか。

「……すまない、熱斗。俺にはどうすることもできない」

「えんざ~~ん!!!」

 友情と欲情の板挟みになって、すっかりグラグラな熱斗の理性がどこまで保つのか。それを見届けるような無粋なことはせず、炎山はリビングの扉を閉めた。






「……とまぁこんな感じで、ほぼ一晩過ごしていた訳だ」

「…………嘘だ…………誰か嘘だと言って…………」

 とりあえず炎山から着替えを借りて(彩斗と熱斗の服は酒まみれだった)、ソファに座って経緯を聞かされていた彩斗は、話が進むにつれ次第に身体を折りたたみ、小さく丸まっていってしまった。

「安心しろ。お前が心配しているようなことはなかったようだぞ」

「………………||||||||||||||」

 まったく慰めにならなかったようだ。

 熱斗は未だソファの傍らに転がっている。酔っぱらいに散々絡まれ、眠るに眠れなかった熱斗がようやく休めたのは、明け方と言っても差し支えない時間だったらしい。

「ね……ねぇ……炎山……」

「なんだ?」

 恐る恐ると言った風情で彩斗が顔を上げ、不安で一杯な表情を浮かべながら。

「熱斗……呆れちゃったかな……」

 今にも泣き出しそうな顔でそんなことを聞いてくる。

 ……まだアルコールが抜けてないんじゃないのか?
 そう思ってしまっても仕方ないほど、目の前の彩斗は無防備だった。うっかり守ってやりたいと思ってしまうほどに。(そんな風に思う炎山もアルコールが抜けきっていないのかもしれない)
 しかし、それは自分の役目ではない。

「それは本人に聞いてみるんだな。俺には答えられん」

 突き放すような物言いに、しゅん、と膝を抱えて更にコンパクトになってしまった彩斗の姿に、さしもの炎山も可哀想に思えて、言葉を付け足した。

「……まぁ、俺には満更でもないように見えたがな」

 困っていたのは確かだが、普段は滅多に無い彩斗からの『好き』という明確な意思表示を、熱斗が喜ばないはずがないのだから。






「とにかく、だ。お前はもう酒は飲むな。危険すぎる(色々と)」

「僕だって、もう懲り懲りだよ……」

(熱斗の方はどうだかしらんが)

「そういえば、この家炎山しか住んでないのにどうしてお酒があるの?」

「――――企業秘密だ」

金魚酒4 [熱彩]

「ね・っ・とv」

 語尾に特大のハートマークが付いていそうな、普段からは考えもつかない甘い声。それが熱い吐息と共に耳許に吹きかけられれば、熱斗でなくとも身が竦むだろう。隣にいた炎山も、突然豹変した彩斗に驚いた顔をしている。

「にっ兄さん? 何で酔っぱらってるんだよっ」

 熱斗の身体に凭れつつ頬に手を添えてスリスリと撫で回している兄に、熱斗はたじろいだ。ほんのりと目元を紅く染め、いつもの穏やかだが強い光を湛えていた瞳はどこか夢見がちで、すっかり精彩を欠いていた。それだけではなく、首筋や胸元、手の先……つまりは全身見事に真っ赤になっているではないか。誰が見ても泥酔している事は一目瞭然だった。

「んーー……酔ってなんかないよォ~お酒飲んでないも~~ん」

 酔っぱらいは誰しもそんなことを言うのだ。何がおかしいのかケラケラと笑っている彩斗の口調は、既におかしくなっている。
 だが、彩斗の言う事ももっともで、未成年という身分をわきまえ、酒の類は持ち込んでいないはず。ならどうして……

「熱斗……お前、これをどこから持ってきた?」

 ふと、炎山はローテーブルの脇に置いてあった物に気付いた。緑のガラス瓶を透かすと、中には半分ほどに減った小さな泡が立っている液体。それのラベルを見て軽く眩暈を覚えた。そこには『Cidre』と書かれていたのだ。

「え? お前ンとこの冷蔵庫だけど」

 飲むもの無くなっちゃったからさぁ。
 至極当然のように言う熱斗に、人のうちの冷蔵庫を無断で開けるなとは思ったが、最大の問題はそこではなかったため、ひとまず保留することにした。

「なるほど、これを彩斗に飲ませたんだな」

「だってそれサイダーだろ?」

「……これはシードルだ。度数は低いがれっきとした酒だぞ」

「い……マジ?」

 どうやら原因は判明した。だからといって問題が解決するわけではないが。

「もぉ、熱斗! こっち見る!」

 グイッと、両方の頬を手で挟み込まれ、無理矢理向きを変えられた。

「うひ……っ」

 ち……近い……っ

 半ば身体にのし掛かるように体重を掛けられ、ほんの少し身動げば簡単に触れられる距離に顔を寄せられて、熱斗は顔を紅潮させた。
 これまで一度として遭遇したことのない、酔っぱらった彩斗の対処に困り果ててはいた。だが、初めて見る表情が新鮮だったり、滅多にない近距離接近が嬉しかったり、やっぱり彩斗兄さんは可愛いなぁとか思ったりで、つい頬が緩んでしまう。

「炎山とばっかり話しててズルイ! 僕のことは放っておいていいっての?」

「や、そんなことは決して! 兄さんを放っておいたわけでは……」

「……ズルイって何がだ」

 炎山の軽いツッコミは当然のように黙殺された。元より返答を期待などしていない。今は何より酔っぱらいの絡みに巻き込まれない事が先決だ。そう思って炎山はさり気なく少しずつ二人から距離を置くことにした。グラスにはちゃっかりシードルを注いであった。

 炎山がこっそりと逃亡を図ろうとしている間にも、絡みは益々エスカレートしていた。

「じゃあ……僕のこと……好きって言って」

「な……っ?!」

 唇が触れそうな距離でウットリとそんなことを言われ、熱斗の心臓が爆発しかねない勢いで高鳴った。

「はい、どーぞ」

 指先で熱斗の唇を突きながら促す彩斗の肩を掴み、ガバッと両腕で押し返した。これ以上は耐えられない。

「そ……そんなの言わなくても分かるだろ?」

 頭の中で鳴り響いている心臓の鼓動に、眩暈と息苦しさまで感じる。

「だーめ。ちゃんと言って」

「兄さん~~」

「もー。言ってくれないと――」

 フッと目を細め、口元に笑みが刻まれる。しっとりと濡れた琥珀に魅せられた瞬間だった。

「――っ!」

 気がつけば彩斗に深く口付けられているではないか!

「~~ンんん???!!!」

 そっと唇を吸われ、名残惜しげに彩斗のそれが離れていった。

「――キスしちゃうぞv」

 してから言うな……!!
 僅かにはにかんだ様子で可愛らしくそんなことを言ってくれる彩斗の姿に、熱斗は頭を掻きむしりたい衝動に駆られた。

 可愛すぎるっつーの!! それに彩斗兄さんからキスしてもらうの初めてじゃないのかひょっとして……!! 記念日だろ記念日!!!

「……少しは人目を気にしろ」

 至極真っ当な炎山の呟きは、残念ながら誰にも伝わることはなかった。

金魚酒3 [熱彩]


「…………」

「………っ……」

 重苦しい沈黙がリビングに充満した。

 1分…2分…

(い……居たたまれない……!)

 そうは思ったが、一体どうすればいいのか。
 3分が経過する頃、膠着状態を破るように背後からやたらと重々しい溜め息が聞こえた。

「おい」

 ビクゥッ!

 大袈裟なほど竦み上がった細い肩。ダラダラとイヤな汗が額を滝の如く流れ落ちるのが分かる。

「……何をしてるんだお前は」

 いつまでそうしているんだと、呆れ気味に言われてしまい、彩斗は恐る恐る身体を後ろに向き直した。
 ギギギと錆び付いたブリキのような音がしてもおかしくないくらいのぎこちない動きに、ひきつりながらもかろうじて笑顔を貼り付け。地を這うような声音で唸った。

「え……え…んざ…ん」

 色々なものが散乱したリビングの入り口に、腕を組んでいつも以上に憮然とした表情の馴染みの友人の姿をみとめ、酷く泣きたい気分になった。

 やっぱり見られてた……っ……いつも仕事とかでいなくなるくせに今日に限ってどうしているんだよ! いやでも、もしかしたら一度いなくなって今帰ってきたばかりかもしれないじゃないかきっとそうに違いない(というかそうあってほしい)そうと決まれば(?)こんな状態になる何か僕的にも炎山的にも納得いく恥ずかしくない画期的な理由を…理由……

 分かりやすく彩斗は混乱していた。

 なんとか言い訳を考えようとするも、当然ではあるがうまく言葉が見つからない。物言いたげな唇はパクパクと虚しく開閉を繰り返すばかりで、意味を成さない音が呻き声となって零れた。

「あ……う、えー……と」

「……あー、彩斗」

 実に言いにくいんだが。
 そう言って壊れたロボットのようになりながら、懸命に何かを伝えようとしている彩斗を遮り、おもむろに床に落ちていた布を拾い上げつつ言い放った。

「いつまでそんな格好でいるつもりだ?」

「へ……?」

 炎山が手にしたそれは、いわゆる下着と呼ばれるもの。しかもとっても見覚えがあった。

「うぁあああっ! そんなの拾わないでよ!!」

 大声を上げて差し出された自分の下着を奪い取り、ワイシャツ一枚のあられもない姿を隠すように肩に引っ掛かっているだけのシャツの袷を掻きあわせる。泣きそうな顔を真っ赤に染め上げ、キッと上目遣いでにらんでいるつもりらしい彩斗に、炎山は内心溜め息をついた。

 朝の光を弾く瑞々しい肢体に、涙の滴を湛えた瞳。物言いたげな唇はいかにも柔らかそうで、どんな感触がするのか触れてみたいと、熱斗あたりはそんなことをつい思ってしまったり、或いは実践したりするのだろう。
 ほんの少し興味を引かれたりもしたのだが、うっかりそんなことをしでかして熱斗に見咎めれた日には間違いなく無事では済まないだろうことは明白なので、想像するだけに止めておいた。

(……熱斗が起きてなくて良かったな)

 色々な意味で。
 しかしながら、このままでは埒が空かない。いい加減この牽制状態を終わらせたい気持ちで一杯だった炎山は、頭を切り替えて言葉を紡いだ。

「それで、この状況なんだが……」

「あ……っ……あのね!」

 自分達の惨状に打ちひしがれながら、彩斗は何とか弁解を試みることにしたようだ。

「これには僕にも説明できない深い理由が……あったりするかもしれない……ので……」

 そこまで言って自分の言い訳があまりに説得力の欠片もないことに益々消え入りたい気分に陥る。

「……その説明できない深い理由とやらについては、俺の方が詳しく話して聞かせてやれるが」

「え」

 聞きたいか?
 そう言った途端に、彩斗の顔が凍り付いた。

(聞きたいかって……そんなわけないじゃないか……! しかも炎山の口振りからすると僕やっぱり昨晩なにかとんでもないことしでかした……??? 一体何を……って、知りたくない……っ! 知りたくなんか……いやでも…………)

 頭を抱え、目に見えてグルグルし始めた彩斗。常にない彼の姿に、炎山は思った。

(…………ちょっと面白い)

 友達甲斐のないことを考えながら口元を手で押さえ、込み上げる笑いを彩斗に見られないようにとそっと背けた。

金魚酒2 [熱彩]




 混乱の収まりきらない頭から記憶の糸をたぐり寄せようと試みる。

(……なんで……)

 両手で頭を抱え、わなわなと絶望に打ちひしがれた罪人のような気持ちで彩斗は床に蹲った。

(どうして何も思い出せないんだっ?!)

 いくら頭を捻っても何があったかがわからない。まるでそこだけ消去されたようにポッカリと空白があるようだ。

 僕らの身に一体何が……? 何がどうなってこんな事になったというんだ……言い逃れできないくらいアレな状況に??

 いくら考えても答えは出ないどころか、謎は深まるばかりだった。
 確認するように恐る恐る顔を上げてみると、目の前にはやはり熱斗がぐったり眠りこけていた。抱え込むようにして彩斗の腰あたりに腕が回されているため、身動きが取れない。

 ほとんど纏うものもなく、ほぼ生まれたままの姿で寄り添っていた自分たち。現場の状況から考えて、つまりそういうことだったとしか思えないのだが、ハッキリ言って彩斗には身に覚えがないのだ。
 本当に致してしまったならそれなりの痕跡が残るはずなのだ。それが今日は全くない。

 もしかして、今回は逆だったのか……? いやちょっと待てそんなバカな!!

(落ちつけ僕っ……思い出せ~思い出せ~~……)

 混乱の極みに陥った自分に言い聞かせるように呪文を唱えつつ、彩斗は思い出せる記憶を少しずつ辿っていった。

 昨日は久々に炎山に会って、それで積もる話もあるだろうからって彼の家に行くことに……

「……あれ……?」

 本日二度目の呟きも、ひどく間の抜けたものになった。

(そういえば炎山も一緒にいた…はず…)

 さ~っと血の気が下がる音が聞こえるようだった。

 まさかこの有様を目撃された……?
ていうかもしかして炎山がいる前で僕たち……いやいやまさかそんな二人きりの時ならばいざ知らずいくら何でも他人がいる前でそんなこと……

「起きたのか、彩斗」

「うわーーー!!!」

 朝っぱらから彩斗の叫びが大音量で響き渡った。

金魚酒1 [熱彩]




「ん…」

 零れる吐息。
 それを合図に眠りの中にあった意識が目覚めはじめた。もぞもぞと身動ぐと、肌に触れる心地良い感触に気付いた。

(……なんだろ……あったかくていい気持ち……)

 まだ眠りの余韻の中にある頭でボンヤリと思った。

 温かくて、そして彩斗の一番安心する匂いがするそれに気をよくして、更に身を寄せてみた。

(……これって熱斗の……)

 大好きな熱斗の匂いだ。

 そう思ったら益々嬉しくなって、胸一杯に吸い込もうと顔をうずめ……

「……あれ?」

 埋めたところには弾力があった。しかし彩斗が予想していたものとは明らかに違っている。

(……クッションってこんなに固かったっけ? それに肌触りが……)

 掌でサワサワと撫で回してみたが、やはりクッションの感触ではない。どう考えても綿が詰まっているとは思えない。しかも、クッションでは有り得ない鼓動まで聞こえるような……
 真相を確かめるべく薄目を開けてみて、途端にガバリと身体を起こした。

(……な……なな……)

 その顔はリトマス試験紙が反応するかのごとく目まぐるしく赤や青に色を変えた。

 なんだこれ~~??!!

 彩斗が身を預けていたのはクッションなどではなく、紛れもない熱斗本人の身体の上だった。その熱斗はなにやらグッタリとしていて起きる気配はない。
 何故かボタン全開のシャツを引っかけただけの自分と、ほぼ半裸の熱斗。周囲には自分たちが脱ぎ散らかしたと思われる衣類……

――到底何もなかったでは済まされない有様だった。

なんちゃって大正浪漫6 [熱彩パラレル]



 物心がつく頃から、養い親であるドクターリーガルに聞かされていた。
実の両親と、一緒に生まれてきた双子の弟。僕の本当の家族はニホンにいる、と。

『この胸に巣くっている病を克服して、家族の許に戻りなさい』

 生まれつき心臓に病を抱えていた僕が発作を起こす度に掛けられた、ぶっきらぼうな物言いながら暖かみを感じる言葉と、痛みを訴える胸を撫でてくれた手。そして遠い場所にいる肉親の存在。それにどれだけ励まされたかしれない。

 話でしか知らない僕の家族。きっと逢える。いつか、必ず…

 その思いが、これまで僕の生きる支えだった。





 まるで、空気を含んだ羽毛が転がるように微かな、けれど優しい感触。

 …きもち…いい…

 鼓動を打つ度に小さく疼く心臓を宥めるように撫でてくれている。

 ……だれ……?

 養い親の手だろうか。触れられていることを認識して、漂っていた意識が浮上する。霞んだ視界にボンヤリと映る影は、記憶の中に見あたらないものだった。

「……気が付いた?」

 そっと掛けられた女性の声。聞き覚えはないが…何故だろう。とても安心する。

「どこか苦しいところは?」

 尋ねられ、小さく首を振って応えた。
良かった、と浮かべられた微笑みはとても暖かくて優しくて……

「ロック…くんだったかしら? 熱斗から話は聞いてるわ。大変だったわね…」

「……ロック…?」

 ロックと呼ばれ、内心首を傾げた。

 僕の名は‘ロック’ではない……それに…熱斗って……

 そこまで思って、未だぼうっとしていた意識が一気に明瞭になる。

「───っ……」

 自分の置かれている状況を思い出し、身体を起こそうとしたがそれは出来なかった。突然動かしたことで胸の辺りから鈍痛が起こり、小さな呻き声を上げて再び身体を横たえる事になった。

「急に起きちゃだめよ。お医者様からも安静にするようにって言われてるのだから」

 額にうっすらと浮かんだ汗を、手拭いで拭ってくれる。その優しい手つきに少しずつ落ち着きを取り戻して、ようやく周囲の様子が見えてきた。
 いかにもニホン家屋といったような落ち着いた佇まいの室内。畳の上に敷かれた布団に、寝かされていた。服はいつの間にか着物に着替えさせられている。既に日は落ちているのだろう、ランプの仄かな灯りが室内を照らしていた。

「……あ…あの……」

「なぁに?」

「…どうして僕……それに…ここは…」

 追っ手を振りきるために無理を押して走り回り、その途中で起こった発作に倒れた所までは思い出した。だが、そこから今こうして寝かされた状態になる経緯が分からず、少し混乱していた。

「熱斗が倒れたあなたを家に連れてきたのよ。送ってくれたのは炎山くん…熱斗の友達だったみたいだけど。熱斗ったら帰るなり物凄い剣幕で捲し立てるんだもの。驚いたわ~」

 そう言いながら傍らに視線を落とす。つられてその女性が座ってる側とは反対を見やると、そこには小さく寝息を立てて熱斗が眠っていた。

「…熱斗…くん?」

「あなたが目を覚ますまで側にいるって、言って聞かなかったのよ。結局寝ちゃったけど。でも……」

 クスリ、と小さく笑みを零し、そっと指で指し示した。

「…あ…」

 布団の傍らで眠っている熱斗の手が、しっかりと自分の手を握っていることに言われて気が付いた。寝ているとは思えないほど、その手に込められた力は強い。それは『絶対に放さない』と言ったあの言葉通りで、何だか照れくさく、そして嬉しかった。

「よっぽど心配だったのね。あなたが倒れたのも自分のせいだって言ってね…」

 そう言いながら、それまで朗らかに笑みを湛えていた瞳が、ほんの少し陰を帯びたことに気付いてしまった。だがそれはすぐに、熱斗に良く似た笑顔で覆い隠された。

「あら、ごめんなさい。そう言えばまだ私のことを話してなかったわね。もう改まって言わなくても分かると思うけど」

 そう言って目覚めて初めに見た、暖かくて優しい……とても愛おしいものを見るような微笑みを浮かべて、彼女は言った。

「私は、はる香。熱斗の……………母親よ」

なんちゃって大正浪漫5 [熱彩パラレル]

 表から聞こえる騒ぎがだいぶ落ち着き、熱斗はひょいっと表に顔を覗かせた。

「あいつら行った? マサさん」

「ようやっとな。なんかしらんが、随分しつこい連中だったな。奥に入り込もうとしやがるから思い切りすねを蹴り飛ばしてやったぜ」

 悪戯を成功させたような、子供のよう笑みを浮かべ、親指を突き立ててみせた。ちらりと覗いた白い歯がキラリと眩しい。

 「流石、マサさん!」

 それに答え、熱斗も親指を立てて返した。

「それじゃ、俺達そろそろ行くね」

「あ、おい! 熱斗」

 店の奥へ戻ろうとした熱斗を呼び止め、困ったように額を掻きながら言った。

「実はな、裏道は今塞がってるんだよな」

「…えぇ?! なんで!!」

 何でも、また新しい建物を造るとかで道が通れなくなっているらしい。

「…しょうがないな、それじゃまた表の道を行くしかないか…」

 そんなことを呟き、裏で待っているロックの元へと熱斗は戻っていった。




「…………」

 ジッと、右手に巻かれた布を見つめる。手を握りしめ、感触を確かめるように頬へと寄せた。そこから微かに感じる匂いが、ロックにはくすぐったかった。

 ずっと、いつか逢いたいと思っていたが、まさかこんな形になるとは。

「…神様は、イジワルだ…」

 ポツリと、そんな呟きが漏れた。

「なにがイジワルなんだ?」

「…っ…わぁあっ!?」

 突然掛けられた声に、何もそこまで…という勢いで飛び上がってしまった。

「び…ビックリした…どうしたんだよロック…」

「あ…ごめんね…ちょっと考え事してたから…」

「まぁいいけど…それでさ、これからの事なんだけど…」

 裏道が使えないために、表の道を行かなければならないことを、ロックに告げた。

「うん分かった…でも熱斗くん、どこに行くつもりなの?」

「俺の家。この先の港の近くににあるんだ」

「…熱斗くんの…家…?」

 ドキリと、また胸が高鳴った。

「うん。俺の父さんさ、国とかの偉い人に頼まれて色々な研究をするのが仕事なんだけど、そのお陰で顔も広いんだ。相談したらきっと力になってくれるよ」

「熱斗くんの家って……家族の人は…」

 微かに声が震えてしまう。だが、幸いにも熱斗はそれに気付く様子はなかった。

「父さんは夜にならないと帰ってこないけど、今なら母さんがいる。母さんの料理、スゲー上手いんだぜ!」

「そ…なんだ…」

 得意げに言う熱斗に、だがロックは上手く答えを返せなかった。

「さ、行こうぜ。あいつらが戻ってくる前に」

 そう言って、ロックの怪我をしていない左手を掴んで立ち上がらせた。

「もうちょっと走る事になるけど、暫く辛抱な! でも、痛かったらちゃんと言ってよ?」

「う…うん…」

 そうして魚の木箱の並ぶ中、表の通りへと出ようとしたその時。

「お…おい熱斗! まずいぞ、奴ら戻ってきやがった!!」

「え?」

 声を掛けられたときにはもう遅かった。二人は既に店先を飛び出し、追っ手が去った方とは逆へ走り去ろうとしていたところだった。

「…たくっ…本当にしつこいな…!!」

 二人の姿を見つけ、男が大きく叫びながら接近してくる。その声を聞きつけ、あちこちから何人も姿を現した。挟まれる格好になり、逃げる場所はもう…

「…熱斗くん…もう良いよ…」

 背後で呟かれた言葉に、信じられない思いで熱斗は振り返った。

「馬鹿言うな! 捕まったらロックが…」

 そっと、ロックを掴んでいた手に、布を巻いた手が添えられる。

「…僕のことは気にしないで。大丈夫、何とかなるよ。鍵も…絶対渡さない」

 そうして、浮かべたロックの笑顔は、どこか悲壮な決意を秘めているようにも見えた。

 自分の手を強く握っている熱斗の手を放させるために、指を外そうとする。だがそれは、更に強い力で上から押さえつけられ、動かせなくなった。

「…絶対放さない」

 低い声で、呟いた。

「ね…熱斗くん…お願いだから…」

「やだ。今放したら、後悔する。そんなのごめんだ」

「熱斗くん…」

「さっきも言ったろ? 守ってあげたいんだって」

 約束を守らせてくれと、そう言う熱斗の真剣な表情に、ロックは縫い止められたようにそれ以上何も言えなくなった。



 きっとどこかに逃げ道はある。

 迫り来る追っ手を視界の隅に捉えながら、熱斗は辺りを見回した。左右に視線を振り、上に目を向け…

「…そうだ!」

「熱斗くん…?」

 何かに気が付いたのか、再びロックの腕を引っ張って、先ほどまで身を顰めていた店の中へ飛び込んだ。

「熱斗?! 裏道は通れないって…」

「良い逃げ道見つけたんだ! マサさん、裏から上らせてもらうね!」

 そう言うと、裏に積み上げられた木箱を踏み台に、熱斗は軽々と屋根の上に登った。

「ロック、掴まって!」

「え…でも…」

「ためらってる場合じゃないだろ? 屋根の上ならあいつらも追い掛けてこられないし、うまく撒けるよ」

「う…うん…」

 平屋作りの長屋の軒先から腕を伸ばして、熱斗はロックの身体を引っ張り上げた。

「…屋根の上に乗るのなんて初めてだよ…」

 微妙に斜めになっている瓦の上に、恐る恐る立ち上がり、辺りを見回して言った。

「そう? 俺は昔よく登って遊んでたよ。一度屋根踏み抜いてからやってなかったんだけど…」

「踏み抜いたんだ……」

「天井まで足突き抜けちゃってさ、凄い怒られたのなんの…でも今はそんな事気にしてる場合じゃないもんな。俺に付いてきて」

 そう言うと、慣れた足取りで屋根の上を身軽に駆け出した。




「ははぁ~なるほどね、屋根の上か…っと。通らせるかよコノヤロウ!!」

 けたたましく響き渡る、箱や物が散乱する音。
 店に押し入ろうとした男達の前で、店先の台や箱を蹴り飛ばし、進路を塞いだのだ。踏み込んだ男達は箱に蹴躓いた転んだりして地面に折り重なった。

「マサさん、ありがとう!」

「また屋根に穴開けるんじゃないぞ!」

「なるべく気を付ける!!」

 そんな返事を返しつつ手を振る熱斗を見送った。

「…愛の逃避行かぁ…俺もいつか、まりこ先生と…」

 そんなことをぼそりと呟き、散乱した魚を片づけ始めた。



 長屋の連なる屋根の上を、熱斗は躊躇もなくどんどん進んでいく。猫のように屋根から屋根を飛び移り、それにロックもどうにか付いていって、いつしか二人は海の近くまで来ていた。潮の香りが次第に強くなっている。
 追っ手の姿は見えなくなり、今度こそ完全に引き離したようだ。
 
「ここまで来ればもう大丈夫だろ。マサさんのお陰であいつらを撒けたし」

 商店街を抜け、漸く地面へ降り立った二人は、ガス灯の点りだした道を進んで、倉庫の建ち並ぶ場所へと辿り着いた。

「この港を突っ切ったところに、俺の家があるんだ」

「…うん…」

 ロックの声に精彩が無い。気になって振り返れば、下を向いて熱斗に付いてくるその足取りがふらついて見えた。

「ロック、大丈夫か? 疲れちゃった?」

「……少し……」

 立ち止まった途端、膝に手を突きながら息を整え、荒い呼吸の下精一杯の笑顔を向けた。
無理もない。あの山の手にある屋敷からこの場所まで、殆ど休憩も取らずに走ってきたのだから。体力には自信のある熱斗ですら、息切れしているほどだ。

「あとちょっとで休めるから、頑張ろう」

 そう言って励ますように差し出された熱斗の手を取ろうと、指先を伸ばした矢先だった。

 ズ ク ン

「----っ……」

 大きく体が揺れた。胸の奥を突き抜けた衝撃の強さに目を見開き、身体をくの字に折り曲げて俯いてしまった。

「…ロック?」

 突然様子がおかしくなったロックを訝しく思い、下から覗き込むと、苦痛に耐えるよう眉間に深い皺を寄せ、両腕で胸を掻き抱いていた。その頬をいくつもの汗の滴が伝い落ちていく。

「ロック…?! どうしたんだよ! どこか痛むのか?!」

「……く…っ…」

 苦しげに呻いて、その場にガクリと膝を折ってしまった。

「しっかりしろ! おい、ロック!!」

 震える瞼を懸命に押し上げると、すぐ目の前で心配そうに瞳を曇らせた熱斗が懸命に自分を呼んでいた。

「…熱………ごめ……」

 急激にぼやける視界。胸に響く激痛に耐えかね、意識が薄れていく。
 そのままロックの身体は力尽きたようにクタリと頽れてしまった。






「ロック…! ロック!!」

 ぐらりと倒れた身体を、咄嗟に腕の中で受け止め、間近で何度も呼んでみるが答えが返ることはなかった。完全に意識を失っている。
 酷く苦しげな表情で固く目蓋を閉じ、呼吸も荒く忙しない。

「…急に何だってんだよ…」

 熱斗は混乱していた。ただごとではないロックの苦しみよう。だが、今ロックは熱斗に向かって謝罪の言葉を口にしていて。それの意味することは…

「…ずっと…隠してたのかよ…」

 具合が悪いことを押し隠し、熱斗に連れられるままに走り回り、屋根の上まで飛び歩いて。

「なんで…言ってくれれば…!」

 だが、その理由も熱斗には分かってしまった。
 鍵を奪われないため。ただそれだけのために、こんなになるまで無理をしたのだろう。


「くそ…どうすれば…っ」

 とにかくこのままにはしておけない。どうにかして家まで戻り、医者に診てもらわないと。
 そうは思ったが、この状態のロックを一人で家まで運ぶことは到底無理な話だ。助けを呼ぼうにも、下手をして追跡者達を呼び寄せてしまっては元も子もない。
 八方塞がりの状況に陥り、熱斗は途方に暮れた、その時だった。

「誰かと思ったら…熱斗か…? こんな所で何をしてる」

「炎山?!」

 突然思いも寄らない方向から呼びかけられ、熱斗は驚いて振り向いた。熱斗と同じ歳の、だが熱斗と違い落ち着いた雰囲気を醸し出す少年が立っていた。

「炎山…何でこんな所に…」

「それはこちらのセリフだ。うちの倉庫の前で、何をしているんだお前は。それに…」


「…頼む炎山! 俺達を家まで送ってくれ!!」

 これまでに見たことの無いほど真剣な、思い詰めた熱斗の表情だった。そして、熱斗の腕の中で気を失っている、見慣れない少年もまた、見るからに危険な容態であることが、素人目にも分かった。
 クルリと踵を返し、背中越しに炎山は言い放った。

「………すぐに馬車を回す。少し待ってろ」

「あ…ありがとう炎山…!」

 暫くして到着した馬車に、熱斗はロックを抱きかかえるようにして乗り込んだ。

「この借りはでかいぞ」

「そんなの、何だって良いよ! とにかく急いで!!」

「乗せてもらっておいて随分な言いようだな。まぁいい、急いでくれ、ブルース」

「は、炎山様」

 合図と共に一つ鞭を入れると、静かだった倉庫街に馬車が走り抜ける音が鳴り響いた。





ブルースが馬車…馬車………プ(自分で書いておいて)

光さんちのバスタイム [熱彩]




 光家のバスルームは結構広い。
浴槽の中では、大人でも足を伸ばしてゆったりと入ることができる。
小学生くらいの体格の子供なら、二人で入っても余裕がありすぎるくらいだ。
そんな大きな浴槽(しかも泡が出る)にタップリとお湯を張った中、
何故か隅っこで足を抱えて小さくなってる熱斗がいた。
 そうするしかない深~い理由が実はあったりする。

「……別にそんな隅に寄らなくても……」

 浴槽に浸かっているのは熱斗だけではなかった。
いつもは別々に入浴する彩斗が、今日は一緒に入っているのだった。
母が用事があるとかで、早めにバスルームを掃除してしまいたい為に、
二人まとめて入るように言いつかったのだ。

「…い…っ…いいの…!!
ホラ、兄さんが窮屈だとアレだし!!」

「……窮屈なのは熱斗だと思うけど……変なの」

 挙動不審の弟を奇妙に思いつつ、身体を洗う為に立ち上がる彩斗。
その途端大きな水音と共に飛沫が上がった。

(だ…誰かタスケテ~~~~っ!!!!)

 目を白黒させ、なるべく彩斗の方を見ないように眼をきつく閉じる。




 彩斗に対して、特別な感情を抱いてると自覚したのはいつだったか。
いつも一緒に行動していた、大好きな双子の兄。隣にいるのが当たり前で、
どんなことも二人で共有してここまで来た。
 歳を重ねるごとに自分たちの周囲の世界は広がり、たくさんの友人もできた。
何でもないことで笑いあって、それがとても楽しくて……でも気付いてしまった。
 時々、彩斗が自分ではない他の友人と話をしている事が…酷く苛立ってしまう。
熱斗自身、兄以外の友人と話をすることなんてざらにある。
当然彩斗にだって熱斗以外の人間と関わる事もあるだろう。
それはわかっている。
 けれど、それでも。

……俺の兄さんなのに……

 自分の知らない話題を、楽しげに話している彩斗を目にすると…
仄暗い感情が胸の裡を埋め尽くすのを熱斗は感じた。
 そんなことを繰り返す内に、やがてそれが‘独占欲’と呼ばれる感情なのだと言うことに気が付いた。
そして同時に、自分が彩斗に対して‘兄弟の親愛’ではなく、
紛れもない‘恋心’を抱いているということも自覚した。
 気付いてしまえば後は斜面を転がり落ちる雪玉と同じ。
日々募っていく独占欲。そして恋情は、熱斗自身にもどうにもならないほどに大きく膨らんでいった。

 …とまぁそんな理由から、現在熱斗は危機的な状況に追い込まれているのだった。
当然、彩斗には自分の気持ちを伝えてなどいない。
どうして良いのか、自分自身わかっていないのだから。
でも…許されるのならば…触れてみたいと思うのは、恋に悩む者としてどうにも仕方のないことだろう。
しかし…触れたら触れたでどうなってしまうのか…
そんな畏れから、熱斗は身動きが取れなくなってしまっていた。





 そんなこんなで、思いがけず彩斗とバスタイムを共にすることになってしまったのだが、
湯煙の中見え隠れする肌は…ハッキリ言って目の毒だ。
 温かい湯に上気したその肌を目に入れてしまった時、自分はどうなってしまうのか…
恐ろしくて想像することができない。

「熱斗と一緒にお風呂にはいるなんて何年ぶりだろうね」

 熱斗の心中の葛藤とは裏腹に、どこか暢気な声で彩斗がそんなことを言ってくれる。

「そっ…そそそうだね!
小さい頃はよく一緒に入ってたけど、まさかこの歳になって兄さんと風呂にはいる事になるなんてな~
あはは…は?」

 何言い出してるんだ俺!!!

 まるで兄とはいるのがイヤだったような口振りになってしまったことに、言ってから後悔した。
予想以上に思考がうまく働いていないようだ。

「……熱斗は嫌だった?
僕は久しぶりだったから嬉しかったけど……」

 思った通り、熱斗の台詞を真正直に受け取った少し沈んだ彩斗の声に、熱斗はひどく狼狽えた。

「そんなわけないそんなわけない!! 嫌なわけないじゃん!!!!
嫌どころか俺だって嬉しかったよ!
でもちょっと色々やばくて……」

 うっかり本音を漏らしてしまい、慌てて自分の口を塞ぐがもう遅い。

「やばいって何が?」

 彩斗兄さんの裸を見ちゃったら色々理性がぶっ飛んで、何しでかすかわからないんです…
…なんて言えるわけないだろ~!!!
 ブンブンと首を千切れんばかりに振りつつ、ノーコメントの意を伝えた。
口を開いたら最後、また何事を言い出すかわかったものじゃない。

「…なんか熱斗さっきから変だよ?」

 のぼせてるんじゃないの?
そんなことを言いつつ浴槽の縁に指を掛け、乗り出すように手を伸ばして熱斗の頬をペタリと触る。

「ににに兄さん…っ大丈夫だから!!
俺は大丈夫だから…っ!!!」

 お願いだから手を放して~~!! 飛ぶ! 理性が飛ぶ!!!
…とは言えず、真っ赤になってますます隅っこに縮こまる熱斗。

「……熱斗、ホントに変……」

 そういいつつ漸く手を放して、気を取り直して彩斗は自分の体を洗い始めた。
熱斗はと言えば、泡にまみれた彩斗の姿なんて危険なモノを目にしないようにギュッと目を瞑った。

 それからしばらくは特に会話もなく、蛇口から滴る水の音が響いたりするだけだったのだが…

「うわぁ…っ!!」

ガシャーン!! カラカラ……

 突然浴室に響いた彩斗の悲鳴。そして色々と倒れたり転がったりするけたたましい音。
あまりの激しい音にそれまでの悶々とした思考も一瞬吹っ飛んだ。

「彩斗兄さん!? どうした……の……」

 浴槽の縁にしがみついて流し場を覗き込むと……

「……び…ビックリした……」

 シャンプーなどのポンプや、ブラシその他諸々が散乱した中、イスからひっくり返ったらしい彩斗が床に倒れていた。
ただ倒れていたのならばまだ良かった。
 どういうわけかボディシャンプーの白い液体が飛び散り、彩斗の腕や身体、
更には顔にまで降りかかっているではないか…!!
 状況から推理するに、ノズルに詰まっていたボディーシャンプーに気付かず、
おもっきりポンプを押したが為に、物凄い勢いで飛び出してしまったのだろう。
だが、それにしても………

 前に見た。こういうのを‘ぶっかける’って言うんだよ。

 ヤケに冷静な思考が、いらん知識をどんどん蓄えていく脳から、
ごく限られたところでしか役に立ちそうにない情報を引き出してくれる。
どこで何を見たのかは…推して知るべし。

 トロリとした白い液体が、彩斗の白い胸や腹を伝い落ちていく様はひどく生々しい。
横倒しになった身体を、腕を立てて上半身を起こした姿勢で起こすと、
いかにも困ったというような表情を浮かべながら顔に付着した液体を指で拭い取った。
ちょうど浴槽に背を向ける形だった為、熱斗からは身体を捻った時に現れる、
悩ましいほどに滑らかな、背中から尻、腿にかけての絶妙な稜線を見ることができた。

※注 光熱斗ヴィジョン

 もうすべてがボーダーラインを飛び越えていた。そして、熱斗に残されていたなけなしの状況処理能力も軽く限界を振り切った。

 バチャ~ン…ブクブクブク………

「え…えええ???
熱斗…! なんでいきなり沈んでるの~~??!!」

 そりゃ、あんな姿の彩斗を見ちゃったりしたら沈みもするだろう。

 兄弟で入浴中に弟が溺死。
危うくそんな見出しが翌日の朝刊に踊ってしまうところだった。
慌てて引っ張り上げてくれた彩斗によって助けられた時には、熱斗はすっかりのぼせ上がっていた。





「熱斗~大丈夫~?」

 すっかり湯だった熱斗が額に冷たいタオルを乗せて、ソファの上でグタリとしている。
そんな弟の為に、ソファに座った彩斗がゆるゆると団扇を扇いでくれていた。

「…大丈夫じゃない…」

 呻くようにいう熱斗に、彩斗は困ったように苦笑を浮かべた。

「……なんか……もしかして僕のせい??」

「……なんでそんなこと聞くの?」

「んー…何となく?
熱斗…僕のこと見てくれなかったから…僕のせいで何か悩ませちゃってる?」

 ちょっぴり淋しげにそんなことを呟く。
そんな彩斗にうっかりキュンとしながらも、本当のことを言えない罪悪感に捕らわれた。。

「…ちがうよ…兄さんのせいじゃない。
俺が悪いの。自業自得」

 彩斗の事で悩んでいると言えばそうかもしれない。
でも彼はまったく何も悪くないのだ。
自分の思いこみで、彩斗に誤解を与え、心配させてしまった。
 そんな勝手な自分に、酷く自己嫌悪の念が沸き起こる。

「…ねぇ、熱斗。ちゃんと言ってくれなきゃ、いやだよ?
僕に隠し事はしないで?」

「……うん……ありがと、彩斗兄さん……」

 優しく、未だ水分を含んだ髪の毛を梳いてくれる掌の感触を心地良く思いながら眼を閉じる。

 この優しくて大好きな兄を傷つけるようなことはしたくない。
そんなことをした日には、きっと自分で自分を許せなくなる。
けれども、日に日に肥大していくこの想いを、いつまでも胸に留めておく自信は…
…熱斗には持てなかった。


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元々裏に置いていたけど、そんな裏にするほどでもないかと思ってこちらに移動。
ボディーシャンプーが飛び散る、の巻。

ノズルの先に溜まっていたボディーシャンプーが固まっているところを、思いっきり押してみる。
誰もが一度はやったことあるでしょうね。そして、高菜もしょっちゅうやってます。その度に思う。
“これって色々な所に付いたら視覚的に色々ヤバイよね…”
そして、こんなことになりました。兄さんぶっかけられる(ボディーシャンプーを)
一応、まだ熱彩的に一線を越えていない感じで。でも、熱斗くん…もう時間の問題だね…
ギャグっぽく終わらせようとしたのに何故か半端にシリアスチックになった。
書き殴り駄文だから仕方ないか…
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